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呼吸が変わるとラクになる

「意図だけ持って、あとはおまかせ」ということについて

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「意図だけもって、あとはおまかせすればいい」
というようなことをよく言っているのですが
これって、つまりどういうこと?
なんにもしないってこと?
いえいえ、そういうわけではないんです。
書いてみたらなんだか結構長くなりました。

大学を卒業してから約15年間、編集者・ライターとして働いてきました。
編集者の期間のほうが圧倒的に長いですが、まあいろいろありました。
編集長が失踪したことにより、急に編集長になっちゃったりとか(笑)。

編集者の仕事っていうのはいまいち、見えないんです。
なにやってるのかわからない。
たとえばファッション誌の場合。

「春に着たいモテコーデ50」とかそんな特集が組まれるとします。
その特集が組まれる前段階として、編集会議なるものがあります。
私の場合、企画を練るときに

まず目的を明確にします。
これが意図ですね。
そして、そのための施策を考えます。
そして、その方法を考えます。

たとえば、目的は「幸せな女性を増やす」だったりします。
その施策が「日々のファッションの悩みを減らす」
方法として「モテコーデの提案」
そんなかんじです。

これって、雑誌作りだけじゃなくてけっこういろんな場面で使えるとおもう。

目的、施策、方法。

人に説明するときにも役に立ちます。
広告モノなんかも作っていたからこんなやり方がしみついたのかもしれません。

※編集者時代は、施策、方法を「考え」ていましたが
「意図を持ってあとはおまかせ」と私が言うとき、
施策や方法は考えません。
なんか、思いつく、なんかやりたくなる、依頼が来る、そんなかんじで
目の前に物事がでてきたりします。
なんかわかんないけど、ブログ書こう、ってなったり。

まあそんなかんじで、企画を編集会議に出して、企画が通ったら
校了日から逆算してスケジュールを立てます。
いつまでに撮影をすれば良いのか、いつまでにライターから原稿をもらえばいいのか、いつまでにカメラマンから画像をもらえばいいのか、などなど。

そこまでやって、はじめてスタッフの調整です。
この企画に見合うスタイリスト、カメラマン、モデル、ヘアメイク、ライター。
撮影日はこの日かこの日あたりなんですが、スケジュールどうでしょう?
って、電話をかけまくります。
大勢のスケジュールを調整するってなかなか大変です。
この人はこの日はOKだけど、この日はNG、この人は午前中はOKだけど午後はNG…
というように、表かなんかをつくって、スタッフのスケジュールをもらいます。
そしてめでたく全員の都合が合う日が撮影日、となるわけです。

スタッフが決まったら、打ち合わせ。
スタイリストにその企画の意図を説明し、意見をもらい、そして場合によっては
ここで「方法」がかわったりします。
モテコーデより、大人かわいいコーデとかのがいいんじゃないかとか。

カメラマンとは、どんな感じで撮影するかの打ち合わせをします。
外でロケなのか、スタジオなのか?
スタジオだったらどんなスタジオなのか?などなど。
ここで絵作りを相談して、スタジオの手配をします。
これも調べまくり、電話かけまくり。
初めての場所であればロケハン(実際に現場を見に行く)もします。
必要であれば撮影用の小道具を手配したりもします。
たとえば、風船あったらいいよね、とか花がたくさんあったらいいよねとか。
(スタイリストに手配をお願いすることもあります)

撮影日が決まって場所が決まったら、必要であればロケバスを手配したり
ロケ弁を手配したり、
まあとにかく、撮影日までに編集者がすることは
相談と手配。これにつきます。
撮影日にも、編集者は特に何もしません。
必要なカット数、ページを構成するのに必要なバリエーション
(モデルが右ばっかり向いてないかとか、縦位置横位置がバランスよくあるかとか)
があるかどうかのチェック。
なんとなく全体を見ているかんじで、
媒体や企画の方向性からずれていないかだけを見ています。
これは、その後の行程でもおなじですが、
どのタイミングであっても、判断に迷ったときにはその企画の目的に立ち戻ります。
そうすると、迷いってなくなる。

で、無事に撮影が終わったら、カメラマンから画像をもらって、選んで、
ライターから原稿をもらって確認して、ふたつを合わせてデザイナーへ。
企画の意図、何を見せたいのかなどを伝えて素材を渡します。

誌面のレイアウトがデザイナーからあがってきたら、
関係各所に内容の確認をしてもらいます。
洋服の値段、問い合わせ先などに間違いがないか、とか。

必要であれば修正をして、内容を確認して誤字脱字を確認して
編集長チェックをクリアしたら、校正に回します。
誤字脱字がないか、日本語としておかしくないかなどなどを確認してくれるのが校正。

そうしてこれでOK!となったら、印刷用のデータをデザイナーにつくってもらって
それを印刷所へ回します。
印刷所内でもいろいろな作業が分担されています。
画像を処理してくれる人、印刷機を回す人、製本する人などなど、
いろいろな人の手がかかってようやく、雑誌という形になるわけです。

長々よくぞここまで読んでくださいました。
これでも結構はしょってますが、でも何が言いたいかと言うと、
編集者って結局なんにもしてないんです
(最近では編集者がなんでもやっちゃう場合もありますが)。

言い出しっぺのくせに、なんもやってない。

形に残るようなことはなにもしてない。
写真を撮るわけでもないし、文章を書くわけでもないし、
デザインやレイアウトをするわけでも、印刷するわけでもない。

でも、本ってできあがる。
お願いして、相談して、手配しただけ。
すごいことです。

長々と、編集者のおしごととは、的なことを書きましたが
意図を持つ、そしておまかせするってこういうことだとおもってます。
なにもやらないわけじゃないんです。
自分ができることはもちろんする。
でも、あとはその道のプロにおまかせする。
編集者がいろいろ指示をしないほうが、おおっ!っていう誌面ができあがる。
だって編集者は、お願い相談手配のプロだけど、
写真や文章、レイアウトやデザインをするプロじゃないから。

たとえば、印刷所からあがってきたものが、ちょっと青っぽいなあと思ったとします。
印刷ではCMYK(シアン・青、マゼンダ・赤、イエロー・黄、ブラック)の
4色で刷ります。その組み合わせでいろんな色ができるわけです。

で、青っぽいなあと思ったときに、
それを印刷所への指示として、「Cをトル」なんて書いたとします。
それで青っぽさがとれるか、というと実はそんなことなかったりします。

青っぽさをとりたい=Cをトル

そんな単純な話じゃなくて、青っぽさをとるためには、
MやYを足すっていう場合もあるわけです。
だから、「青っぽさを取りたい」という意図を印刷所に伝える必要がある。
そうすると、印刷のプロが何色を引いて何色を足せば良いのかは考えてやってくれる。

意図を伝えると、あとは適切な形でプロが実現してくれる。

人生に置き換えていえば、意図を持つ。
で、それを投げてみる。
と、現象を作り出すプロ(something great/大いなるなにか)が動いてくれる。
私は目の前にあることをする。
それは、ただなにもせずに待っているのとはちがうわけです。

こんな話をきいたことがあります。
ある旅人がいました。
砂漠をラクダとともに移動していて、夜になり一泊することに。
旅人は神さまを信じていました。
神さまは、悪いようにはしない。必ず守ってくれる。
もし、このラクダが私に必要ならば、木にくくりつけておかなくとも
朝になってもまだここにいるはずだ。

そんなふうに思って、ラクダを木にくくりつけずに眠りました。
朝起きると、ラクダはいなくなっていました。
旅人は、神さまに、
「私はあなたを信じていたのに、なぜラクダがいなくなったのでしょうか!」
と、問いかけました。
するとこんな返事が返ってきました。
ラクダが必要であれば、
ラクダを木にくくりつけておくのは、おまえのやるべきことだ。

そんなかんじです。


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師と仰ぐ森田愛子先生の本のライティングを担当しました。
とってもやさしく書いたので、気楽に読んでいただけるかとおもいます。